名古屋高等裁判所 昭和42年(行コ)14号 判決 1968年2月27日
控訴人(原告)
真田株式会社
代理人
脇坂雄治
被控訴人(被告)
愛知県知事桑原幹根
指定代理人
岩田要外二名
被控訴人(当審追加)
愛知県東新県税事務所長
石本理
代理人
鈴木匡外一名
主文
被控訴人愛知県知事に対する本件控訴を棄却する。
控訴人の当審における追加的請求にもとづき原判決を次のとおり変更する。
控訴人の昭和三九年七月一日より昭和四〇年六月三〇日までの事業年度分について、被控訴人愛知県東新県税事務所長の昭和四一年一一月二五日付法人の事業税の更正通知書をもつてした法人の事業税額の更正処分を取消す。
訴訟費用中、被控訴人愛知県知事に対する控訴費用は控訴人の負担とし、被控訴人愛知県東新県税事務所長に対する当審追加請求により生じた費用は同被控訴人の負担とする。
事実<省略>
理由
一被控訴人愛知県知事に対する請求について<省略>
二被控訴人愛知県東新県税事務所長に対する請求について、
(一) 本案前の抗弁について、
本件記録によれば、控訴人は被控訴人愛知県東新県税事務所長の事業税更正処分についての審査請求につきなされた被控訴人愛知県知事の裁決に対し裁決取消の訴を提起し、当審に至つて被控訴人愛知県東新県税事務所長に対する原処分取消の請求を追加的併合の申立としてなしたものであること明らかである。そして右原処分取消の訴が裁決取消の訴に関連することはいうまでもないから、被控訴人愛知県知事の同意を要することなく原処分取消の追加的併合申立が許さるべきことは行政事件訴訟法第二〇条第一九条第一項の規定よりみて明らかというべきである。控訴人の右追加的併合の申立を不適法という被控訴人愛知県東新県税事務所長の本案前の抗弁は理由がない。
(二) 本案について
被控訴人愛知県東新県税事務所長に対する控訴人の当審追加請求原因中第一ないし第三項(原判決事実摘示のうち請求原因第一ないし第三項引用)については当事者間に争がない。控訴代理人は被控訴人愛知県東新県税事務所長の控訴人に対する法人事業税更正処分は違法である旨主張する。
控訴人が資本金九〇〇万円の会社で愛知県岐阜県及び静岡県の三県に事務所又は事業所を設けていたところ、昭和三九年九月一日静岡支店の廃止により二県に事務所又は事業所を設けるにいたつたこと、昭和四〇年一月二一日その資本金を一、〇〇〇万円に増資したことは、被控訴人愛知県東新県税事務所長の明らかに争わないところである。
控訴代理人は控訴人は期末においては三県ではなく、二県において事務所又は事業所を設けていたにすぎないのであるから、この点において軽減税率不適用のための課税要件はみたされていないのに軽減税率を適用せずになされた被控訴人愛知県東新県税事務所長の更正処分は違法である旨主張するのに対し、被控訴人愛知県東新県税事務所長代理人は三以上の道府県において事務所又は事業所を設けて事業を行つたか否かは事業年度の全期を通じて判定すべきで同被控訴人の更正処分は違法でない旨抗争するから、この点について考察する。
地方税法第七二条の二二第二項には法人事業税の軽減税率不適用の要件が定められているが、その一要件たる「資本又は出資額一千万円以上」については、同条第五項に各事業年度の所得を課税標準とするものにあつては各事業年度終了の日を基準とする旨規定されているのに比し、他の一要件たる「三以上の道府県に事務所又は事業所を設けているか否か」の判定時期については明文の規定を欠いている。
しかしながら事業税につきかかる軽減措置を講じたのは一つに中小企業を保護育成するためであつて、大企業に対しては軽減のための複雑な手続をふましめてまで軽減をはかる要をみないとする趣旨にいでたものと解される。したがつて軽減税率の不適用のための右二要件はいずれもこの意味における大企業に該当するか否かを判定する基準を示すものと解すべきであるから、その判定の時期につき、両者を別異に解すべき根拠は考えられない。してみれば、三以上の道府県に事業所又は事務所を設けているか否かの判定時期についても「資本又は出資の額一千万円以上」の要件の判定時期の規定を類推して、事業年度の所得を課税標準とするものにあつては各事業年度終了の日と解するのが相当である。
この点について被控訴人愛知県東新県税事務所長代理人は、一時でも事業を行えば事業税の対象となること、当該道府県の公共施設を利用するなどその有形無形の恩恵に浴することよりみて、三以上の道府県に事務所又は事業所が併存したと否とを問わず、地方税法第七二条の二二第二項の要件をみたす旨主張する。
しかしながら、右被控訴代理人の指摘する事実は、事務所又は事業所所在の道府県に対する事業税の分割納付に関して考慮さるべき事柄であつて、軽減税率不適用の大法人か否かを判定するについて解釈の根拠とすべきものではないから、右被控訴代理人の主張は採用できない。
なお、被控訴人愛知県東新県税事務所長代理人は、自治省通達により軽減税率不適用の法人の判定時期を期末と判定することとなつたとしても、昭和三九年七月一日より昭和四〇年六月三〇日までの事業年度に関する控訴人の本件事業税については関知しない旨主張する。
しかしながら地方税法第七二条の二二第二項については前段説示のごとく右通達と同一の趣旨に解するのが相当であつて右客観的合理的解釈が行政庁の通達により左右される筋合のものでないことは言うまでもないから、右通達以前においても右と同一の解釈が首肯さるべきである。被控訴代理人の右主張は採用できない。
してみれば、昭和四〇年六月三〇日の期末において二県に事務所又は事業所を設けていたにすぎない控訴会社に対しては、地方税法第七二条の二二第一項所定の軽減税率を適用すべきにかかわらず、同条第二項後段に該当するとして右軽減税率を適用しなかつた被控訴人愛知県東新県税事務所長の更正処分には明白重大な違法があるものというべく、右更正処分は取消を免れない。
よつて、被控訴人愛知県東新県税事務所長に対し、控訴会社の昭和三九年七月一日から昭和四〇年六月三〇日までの事業年度につき昭和四一年一一月二五日付法人の事業税の更正通知書をもつてした法人の事業税額の更正処分の取消を求める控訴人の本訴請求は正当として認容すべきである。<後略>(成田薫 布谷憲治 黒木美朝)